第2回 自然な色合いで相模湾とつながるー滞在目的となるプールへ
グレーを用いることで自然できれいな青へ
「とても良い仕上がりになっていると思います」――プールの仕上がりを決定づけた要素のひとつが、プールの底面に選んだ色でした。
一般的にプールの底面といえば水色や青が思い浮かびますが、Y様はあえてグレーを選択しました。グレーの底面に水が入ることで、光の屈折によって自然な青みが生まれ、結果として相模湾の海の色に近い深みのある色合いになったといいます。
海を望む立地だからこそ、プールの水面と相模湾の色が呼応する。その一体感が、施設全体の雰囲気を底上げしています。青を選んでいたら出せなかった、この場所ならではの表情です。
疑似インフィニティ仕様が生む、開放感
仕上がりの印象を決めるのは、色だけではありません。今回のプールは、エッジを切り落とした擬似インフィニティ仕様になっています。視線の先にプールの縁がなく、水面が空や海に溶け込んでいくような開放感を演出します。
さらに照明を1灯設置することで、夜間の表情にもこだわりが生まれました。昼間は相模湾と溶け合うような水面、夜間は照明に照らされた幻想的な水面——時間帯によって異なる顔を持つプールは、ゲストにとって滞在中の特別な体験になります。
施設のコンセプトや立地との調和を意識しながら、色・形・光のすべてにおいて判断を重ねた結果が、「とても良い仕上がり」という言葉につながっています。
プール目的で来てくれるお客様たち
完成したプールは、ゲストの行動にも明確な変化をもたらしました。
「プール付きで探してきてくれる人が多い。みんなこれ目的に来てくれてますね」
最大10名が宿泊できるこの施設には、グループの予約が多く寄せられています。
ゲストは家族連れや友人グループの利用が目立つとのこと。熱海という立地もあり、海を目的に訪れるゲストもいますが、海がオープンしていないシーズンでもプールに入れるという点が、リピート予約や口コミにつながっているそうです。
お客様によって発掘されるプールの新しい価値
プール付き施設の客層については、運営側の想定と実際の利用者がずれるケースも珍しくないといいます。Y様が以前耳にした、あるホテルの話が印象的です。
「とあるホテルのプールは、もともと年齢層が高めの方、高所得者層がゆっくりプールを愛でるイメージで設計したものが、実際は10代~20代がナイトプールのように使うなんてこともあるようです。当初考えていたのとは違うなと。」
設計段階では想定していなかった使われ方が生まれ、それがそのまま施設の魅力になっていく。プールという設備が持つ集客力の広さと、予測しきれない面白さが、この話には凝縮されています。
Y様の施設では価格帯や立地の特性から、30〜40代を中心とした落ち着いた客層が多いといいますが、プールがあることで生まれるゲスト体験の幅広さは、施設の個性を形づくる大きな要素になっています。
温度計ひとつにも、施設の世界観が宿る
細部へのこだわりという点で、Y様が触れたのが温度計の話でした。
ゲストに水温をわかりやすく伝えるための温度計も、施設のデザインと統一感がとれたものであってほしい——そんな細かな視点が、施設全体のクオリティを守ることにつながります。プール本体の仕上がりにこだわるのと同様に、付帯する備品ひとつひとつにも施設のコンセプトを貫く姿勢が、ゲスト体験の完成度を高めます。
こだわりが目的地となるプールへ
「グレーのプールが、相模湾の色になった」——この言葉は、単なる色の話ではありません。立地を活かした設計の判断、インフィニティ風のエッジがもたらす開放感、夜間の照明演出。それらが重なって初めて、施設の世界観と一体になったプールが生まれます。
そしてそのプールが「目的地」になることで、ゲストはプールのために予約し、プールのために来てくれるようになる。施設の差別化とは、そういう体験の積み重ねから生まれるものです。
INTERVIEWEE
株式会社アスノバ・デザイン
相馬 和樹
星野リゾートでホテル運営とホスピタリティを学んだ後、三井不動産レジデンシャルサービスにてマンション管理に携わり、施設管理の知識・経験を培う。現在は株式会社アスノバ・デザインにて施設責任者を務め、施設管理から宿泊施設の運営・サービス改善まで、現場と運営の両面から施設づくりに携わる。
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